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やわらかくあたたかな彼女の胸に顔をうずめ、深く息を吸い込む。
なにをつけているわけでもないのに、甘くとろけそうなかおりがした。
華奢な体をぎゅっと抱きしめる。
彼女は人形のように動かない。ただ力を抜いて、されるがままになっている。
おそらく目は虚ろで、口はただ呼吸だけを繰り返し、音も聞こえず、心臓だけが脈打っているのだろう。

彼女は時折自我をなくした。狂おしいほどに世界を愛する彼女は、そこにあふれかえる悲しみに耐えられないのだろうと思う。
そんなことはただの妄想で、本当のところは彼女の心に病が巣食っているからだ。
気がおかしくなったかのように泣き叫び、暴れまわり、そして糸の切れた人形の如く崩れ落ちる。
そんな時は決まって、自分はどうすることもできず、涙を拭き、振り回される拳を受け、抱きしめる。
名前を呼ぶことはない。呼んで、返事がなければ、もう耐えられなくなる。
怖かった。彼女を失うことが、怖くてしょうがなかった。

ずっと自分たちは何かが食い違い、ちぐはぐな生き方をしていると思っていた。
その綻びが彼女の心を傷つけているのではないかと、そう思っていた。
きっとそれは真実で、自分たちには本当の生き方があり、おそらくそれは幸福なものではないだろう。
わずかに力を取り戻した彼女の指先に口づけ、その冷たさに心臓が押しつぶされそうになった。

「ユキ、全部、よくなるよ」

自分の頬に掌を押し付け、手首に唇を落としていう。

「もうすぐ朝が来る。そうすれば、全部、よくなるから」

小さなうめき声を漏らす彼女を一層強く抱きしめ、どうして自分は涙すら流さないのかと、苦しくて、また、胸が痛んだ。
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