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雨の音だろうか。
ひたひたと忍び寄る死の足音のように、静寂の中に水の音が響く。
自分が今、立っているのか座っているのかすらわからなかった。

兄とは血のつながりはなかった。
けれど、それ以上の絆があると信じていたし、事実そうだったろうと思う。
内気で、うまく生きることのできない自分に手を差し伸べてくれた、たった一人の人だった。
ユキがいじめられれば、すぐどこからともなくやってきて、助けてくれた。
孤児院で折檻を受けた時も、必ず助け出してくれた。
きつく握りしめた右手に、まだあの手のぬくもりが残っているような気がして、涙を流すことができなかった。

これが正しいのだと、心のどこかで思う。
自分の知らない自分が、こうなることを知っていたように思う。
苦しみは増し、悲しみにのまれそうになるが、どこかちぐはぐだった生活から脱した感じがあった。
これは兄と自分との終わりではなく、再びめぐりあうための始まりだと思った。

「ユキ、準備は」

ディルが、大きな旅行カバンを携えて尋ねる。

「なにもない。ユキのものは。全部ここに残していく」

立ち上がり、前を見る。
雲の切れ間から差し込む光が、きつく唇を引き結んだユキの横顔を照らしていた。
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