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(俺は、俺だけは知っている)
「んッ、はぁ…」
「もう動く、我慢できない」
「ま、てって…俺こっちじゃ…」
酒に酔う、男に酔う、灰色の髪に、金色の左目に、ふとした時に見せる、恐ろしいほどにやさしい眼差しに。
「いつも…おれが、こうされてる」
トウヤが言う。まるで腹の中が燃えるように熱く、ああそうだ、いつも俺はこんなことをこいつに強いているんだと実感する。
「強いて…」
「ない、おれはそれが…これが、好きだからする」
そしてこういう時、トウヤはいつもほんのわずかな言葉から心を察し、また本人もわずかな言葉で真実―――あるいは嘘―――を伝える。
(俺だけが…)
「ウ…ん、あっ、あ!」
「はぁ、あぁ…」
「まて、まてって…まっ、あ、」
涙が出るほど気持ちよく、まったく上も下も、何もかもを忘れて、いつもは組み敷いている彼の体に腕をまわし、背中に爪を立てた。
徐々に速度を上げる腰の動きに思考がついていかず、酒の力も手伝って次第に音もすべて遠くなる。
「も、出る」
俺も、と彼の頭をつかみ、抱え込むようにすると、耳元で泣きながら彼が誰かを呼ぶのが聞こえた。
(誰かなんてのは、俺だけが知ってる)
「あ、あっ、う…ッ」
「ンッ…」
声は頭蓋のなかで反響し、ディルの思考の中をまるでピンポン玉のように跳ねまわる。
ユキ、とささやく声。甘く、誰も、他の誰も、聞いたことのない声で。
(いもうと…自分の)
ぐったりと倒れこんできた体を、抵抗せず受け止めながら目を閉じる。
(こいつは…自分の妹を抱きたいと思っている)
信じられないほど早く脈打つ鼓動を体内で聞きながら、やわらかい彼の髪を指先でいじった。
(なにも信じられないと泣く、彼女の姿が、俺には見える)
そのことをすべて洗いざらいぶちまければ、彼は自分だけのものになるか。
(愛しているという言葉の意味と重さも知らない俺たちが)
着飾って、気取って、その言葉があたかも自分だけのものであるかのように振る舞う。
(俺たちが…どこへ行けるというのだろう)
朝はもうすぐそこだろうか。鳥が飛んでいるのだろうか。
分厚いカーテンにさえぎられた窓の向こうでは雨が降っているのかもわからなかった。
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