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成田国際空港のロビーからバスで約2時間、大きなトランクを左腕だけでごろごろ引きずりながら、待ち合わせの駅に着いた。
あたりは黒髪黒眼の人たちばかりだ。ここは日本だから当たり前だが、なんだか不思議な光景だ。
そして彼らも、不思議そうに自分を見る。
自分の髪は金色だし、瞳は青い。おまけに、右腕がない。
若い頃事故で失ったきりだ。
「お、待たせたな」
待ち合わせの相手が来た。
「待っていないよ、今バスがついたばかりなんだ」
「そりゃよかった。荷物よこせ、持ってやる」
「ありがとう」
不慣れな日本語で話す。
お互い出身国は同じなのに、変な話だ。
「ちょっと電車に乗って、そしたらすぐあいつん家だから」
「うん、日本の電車は広いし、清潔だから、好きだよ」
彼はトランクを持って歩き出した。自分も後に続く。
「しかし驚いた」
改札を通り抜け、駅のホームに立った時、彼が言った。
「おまえが…なんていうか、その、あの国から出るとは思ってなかった」
彼はこっちを見ていなかった。
「いろいろ…あったろ、ほら、家のこととか…彼女のこととか」
「うん、まあ、これもいい機会だと思って。ぼくはいつまでもあそこにいないほうがいいって、トウヤも言ってたし」
「あいつと連絡とってたのか」
「きみとするように、電話や、メールのやりとりをしてた」
「知らなかった…なんだよ、みずくさいな」
「みずくさい、ってどういう意味?」
「…もっとあけっぴろげになってもいいんじゃないか、みたいな意味だと思う」
「難しいね」
「まあ、とにかくだ」
そこで電車がホームへとはいってきた。
乗り込む時、トランクを持ち上げなおしながら、しかしまあ、と彼がまた呟いた。
「本当に…いや、でも、そのほうがいいのかもな。あいつもそういうなら、きっと間違いない」
「ディル」
「うん?」
「君たちには本当に迷惑をかけた」
電車が発車する。揺れる車内で、席は空いておらず、左腕で吊革につかまりながら言った。
「彼女のことも…たぶんこれからのぼくの生活において、過去や、君たちの存在がなくてはならないものになると思う」
彼は黙って話を聞いていた。
「けれど、ぼくは、後悔をやめない。ぼくは、この先何を得ても、失ったものへの執着をやめない」
気づけば町並みは赤く染まり、西日が二人の頬を赤く照らしていた。
「ラムザ、俺は何も言わない。けれど、自分を責めることだけは、してほしくない」
「トウヤもそういった」
「同じ気持ちだよ。俺たちは兄弟だ、生まれも育ちも違ってたって、それ以上の絆がある」
「知っているよ」
ぼくはそれに支えられて、今もここに立っている。
その言葉を飲み込み、もう一度、知っているよ、と呟いて、沈む太陽の眩しさに目を細めた。
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(俺は、俺だけは知っている)
「んッ、はぁ…」
「もう動く、我慢できない」
「ま、てって…俺こっちじゃ…」
酒に酔う、男に酔う、灰色の髪に、金色の左目に、ふとした時に見せる、恐ろしいほどにやさしい眼差しに。
「いつも…おれが、こうされてる」
トウヤが言う。まるで腹の中が燃えるように熱く、ああそうだ、いつも俺はこんなことをこいつに強いているんだと実感する。
「強いて…」
「ない、おれはそれが…これが、好きだからする」
そしてこういう時、トウヤはいつもほんのわずかな言葉から心を察し、また本人もわずかな言葉で真実―――あるいは嘘―――を伝える。
(俺だけが…)
「ウ…ん、あっ、あ!」
「はぁ、あぁ…」
「まて、まてって…まっ、あ、」
涙が出るほど気持ちよく、まったく上も下も、何もかもを忘れて、いつもは組み敷いている彼の体に腕をまわし、背中に爪を立てた。
徐々に速度を上げる腰の動きに思考がついていかず、酒の力も手伝って次第に音もすべて遠くなる。
「も、出る」
俺も、と彼の頭をつかみ、抱え込むようにすると、耳元で泣きながら彼が誰かを呼ぶのが聞こえた。
(誰かなんてのは、俺だけが知ってる)
「あ、あっ、う…ッ」
「ンッ…」
声は頭蓋のなかで反響し、ディルの思考の中をまるでピンポン玉のように跳ねまわる。
ユキ、とささやく声。甘く、誰も、他の誰も、聞いたことのない声で。
(いもうと…自分の)
ぐったりと倒れこんできた体を、抵抗せず受け止めながら目を閉じる。
(こいつは…自分の妹を抱きたいと思っている)
信じられないほど早く脈打つ鼓動を体内で聞きながら、やわらかい彼の髪を指先でいじった。
(なにも信じられないと泣く、彼女の姿が、俺には見える)
そのことをすべて洗いざらいぶちまければ、彼は自分だけのものになるか。
(愛しているという言葉の意味と重さも知らない俺たちが)
着飾って、気取って、その言葉があたかも自分だけのものであるかのように振る舞う。
(俺たちが…どこへ行けるというのだろう)
朝はもうすぐそこだろうか。鳥が飛んでいるのだろうか。
分厚いカーテンにさえぎられた窓の向こうでは雨が降っているのかもわからなかった。

ディルの家に勝手に上がりこんで、買いあさってきたマンガをひろげてだらだらする。
「おもしれえー」
「おまえ!家にあがるのはいいとして、人の酒勝手に飲むなよ!」
「うめえー」
「うめえだろうな、俺の秘蔵の焼酎あけてくれて、本当に感謝してるよ」
「さきいか食う?」
「食わねーよ」
あちこちに散らばった空き缶やらを集めて、そろそろ支度するか、とキッチンに立つディル。
今日はオムライスらしい。

「なーなーディル」
「なんだよ」
「好きだ」
「ぁン?」
「あいしてるー」
普段口にも出さなく、たぶん思ってもいないだろうことを言ってはうひゃひゃと床をころがりまわるトウヤ。
「…おまえ、何読んだ?」
「“よつばと”最新刊」
「あー…」
「よつばかわいい…あ、かわいくない」
「なんだよそれ」
「“あべこべごっこ”だよ」
ピーマンを刻みながら振り向く。

「好きだーあいしてるー結婚してくれー」
「あべこべか」
「さあ、どっちでしょう」
「…愛してる」
「!」
「あべこべ」
「なのか?」
「どっちでしょう」
「いじわる!」
「あべこべ」
「…いいやつ!」
「まあな。飯食うぞ」
「食っていいの?」
「あべこべおしまい」
「いただきまーす」
「グリンピース除けんな」
「豆まずい」
「食え」
「おべぇー」

トウヤ、影響されやすい。




会話文、どっちがどっちかわからなくても、もうしょうがない。申し訳ない。こんな調子でいきます。

作家兼翻訳家の皆月トウヤ(29)と物理学教授ディリア・ハインツ・ウェーズ(28)の日常。
たまに高校生たちの若くはつらつな恋。
大人げなく、子供らしくなく、手をつなぎながらお互いにどこか傷つけあう人たち。

そのほか
・ユキ(トウヤの義理の妹
・ラムザ(トウヤ、ディルの共通の友人
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